ABCが消えたこと

青山ブックセンターが倒産! というネタはすでにいろんなところに書かれていて、もはや何をいまさらなんだけど。
ABCといえば、おれにとっては相変わらずAsahi Broadcasting Corporation(朝日放送株式会社)で、TBS/テレビ朝日毎日放送朝日放送という4社に関しては、今はもうそれほどではないのだろうけど、いろいろクリティックだったこともあって忘れがたい。
それに比べて本屋さんのほうのABCは、正直言ってそんなに利用していたわけではないし、麻布/青山/六本木文化圏とは程遠いところで生活していたこともあって、テレビ朝日か六本木PIT-INNに行くとき以外、わざわざ足を運ぶこともなかったし、椎名誠じゃないけれどあのあたりはキライなエリアだった。
それでも、六本木PIT-INNとテレビ朝日がある関係上(それと防衛庁側に小さなライブハウスがあって、来日した大物ミュージシャンがシークレットライブとかやっていた)、ときどき六本木には足を踏み入れ、時間が早ければWAVEをまわったり、タモリがオーナーだと言われていた博多うどんの店で“ごぼ天”を食べたり、ライブがはねた後の深夜遅くにはABC六本木店で本を漁り、24時間営業の喫茶店で始発までの時間を潰すか、お金がないときは渋谷か赤坂見附までダラダラ歩いて空の色が変わってゆくのを楽しんでいたもんだ。
だから本屋のABCというと、本店の青山ではなく六本木店がまず思い浮かぶし、それも目的地の近所にある本屋というイメージだ。
今はデザイナが六本木に事務所を構えていることもあって、月に1度は六本木に出ているけれど、ABCよりは地下鉄駅上の「あおい書店」に行くことのほうが多い。ABCのトレードマーク的な商品はもちろん、はす向かいにある誠志堂のターゲットゾーンにもきちんと対応しているせいだ。ABCに行くのは、おれとしては神保町の古本屋を巡礼するのと同じで、なんかとんでもない掘り出し物(この場合は、数年前に出たものの返品し忘れて陳列されたままの新刊本)が見つかるんじゃないかという期待感だけ。それも年々薄らいだけど。あと、店のまっすぐ奥でやってる特集コーナーで、ずいぶん昔にニューオリンズファンク特集をやっていてミーターズとネヴィルブラザーズの全CDが並んでいたときから、そっちも気にはなっていたけど。いずれにせよ、新刊書店という認識はもはやおれにはなかった。
某所に書かれていた「(個性的な)本屋はぼくのランドマーク」なんて、かっこいいことはとても書けない。なにしろ、この一文を書きながら思い返してみたら、おれのランドマークはほとんど死滅していて跡形もないのだ。まあしかし、世の中そんなものである。